アポもなく突然尋ねてきた元家庭教師の腕の中という檻に閉じ込められた所からこの話は始まる。
この人は質素な暮らしをするシンデレラを迎えに来た王子様などではない。
ただの、殺し屋だ。

@@@を後ろから抱きすくめたまま、リボーンは頭頂部から耳の裏、首筋、肩と順々に唇を落としていく。
耳の軟骨のあたりを甘噛みされて、反射的にびくりと@@@の体が跳ねた。

「っ、せんせぇ」

「先生はもうやめろって言っただろ。リボーンだ。」

「・・・リボーン、」

ため息と一緒に名前を呼んだら、随分と艶かしい声が出てしまった。
呼ばれた本人はそれが嬉しいのか、くつくつと喉の奥で笑いながら、どうした?と甘く囁き返す。
確信犯め、と思いながらも@@@は当初の疑問を投げかけた。

「リボーン、今日は何しに来たの?」

うちで肉食べて嫌がらせする為だけじゃあないでしょう?
何もこの状況下で聞かずとも、@@@はその答えを重々承知していたのが、それでもあえて問いただす。
そうこうしている間にも、リボーンの長く美しい指が@@@のカットソーの裾から侵入してこようとしていた。

「お前のこと抱きに来たに決まってるだろう?」

宣言すれば、それが免罪符にでもなると思っているのだろうか。
カットソーの裾から侵入してきた手に脇腹を撫で上げられてぞわりと肌が粟立つ。
@@@はその手を服の上から押さえつけてこれ以上の悪さが出来ないようにすると、
背後から抱きすくめられたままだった体勢からくるりと身を翻し、リボーンと向き合った。

「まだランチを終えたばかりの時間なのに、随分とお盛んなこと」

@@@はリボーンの首に腕を絡ませて、そのまま口付けようとした―――のだが、
その動作は唇に到達する前にやんわりと押し留められる。

「このままキスしていいのか?俺、さっき肉食べたばっかだぞ」

だから、唇にはキスしなかったんだ。気付かなかったのか?
涼しい顔でいけしゃあしゃあとそう告げられ、@@@の顔は瞬時に歪められる。

「歯を磨け、今すぐ磨け!それまで私に指一本触れるな、このスケコマシ!」

眼前でそうわめき散らすと、リボーンは小さく舌打ちして洗面所へと消えていった。

@@@は中途半端に火をつけられた体を自ら抱え込むようにして、リボーンのいる洗面所の壁にもたれかかる。
どこまでも人を喰ったような言動を繰り返すくせに、いつだってリボーンはベッドの中では優しいのだ。
そして、@@@の精神面の弱さが露呈した結果―――つまりは肉が食べられなくなったという事象までも、
責めるでもなくただ淡々と受け入れ、しかも唇にはキスをしないだなんていう気遣いまでしてくれている有様に、
(正直、罵倒されるなり無理やり肉を食わされるなり、くらいの事をされるのではないかと予想していた)
@@@は無性にリボーンに対する申し訳なさが募り、ごめんなさい、と小さく呟く。
リボーンは置いたままにしている歯ブラシを咥えたまま戸口に立つ@@@を振り返り、
ニヤリと笑うと白い泡を吐き出してから「ベッドで待ってろ、すぐ可愛がってやる」

ああ平素、そんな事を口にされたら傍にあるもの手当たり次第に顔面に投げつけてやるところなのに、
エロモードって偉大だ。気恥ずかしいどころかちょっと濡れたよ。
畜生。本当にこれじゃ畜生だ。リボーンに抱かれるのを尻尾振って待っている惨めな女みたいだ。
むしゃくしゃした気分と一緒に着ていた服をランドリーに入れてしまおうと、スカートのホックを外そうとしたら、

「勝手に脱ぐなよ。脱がすのだって楽しみのひとつだろ。」

口をゆすいだリボーンにそう言われてしまい、結局@@@は大人しくベッドルームに引き下がる。

ベッドの上にぺたりと座り込んで髪の毛先を弄んでいたら、歯を磨き終えたリボーンがベッドルームに入ってきた。
ジャケットは何処かに引っ掛けてきたのか、既にその身に纏れていない。
目の前に立つリボーンに視線を合わせるようにベッドの上に膝立ちになると、本日初めての唇へのキスが降ってきた。
上唇と下唇に順番に吸い付くようにキスをして、それから口内を舌でまさぐられる。
角度を変えて何度もキスを交わす合間に吐息を漏らすと、リボーンの口が満足げに歪められた。
@@@の頬を包むようにしていた両手が徐々に下に降りていって、
カットソーの裾をめくり上げ、キスの合間にスルリと剥ぎとられる。
下に着ていたキャミソールの肩紐をストンと下に落として下着を露にさせると
背中のホックが片手であっけなく外され、乳房をぷるんと掴まれた。手馴れたもんである。
@@@はその間にリボーンの喉元にあるネクタイの結び目に人差し指を突っ込むと、
上方に引っ張りあげて隙間を作り、そこからしゅるりと一気に引き抜く。
@@@はこのネクタイを外す作業が、フェチズムと言っていいくらいに好きだった。
そのままピンストライプのワイシャツのボタンを上から順番に外して、晒された首もとに顔を埋める。
そうすると、普段はあまり感じられないリボーンの体温だとか、僅かに香る体臭だとかが感じられて、
更には首という人間の急所を自分に開け渡してくれているという背徳じみた優越感も相まって、
@@@はそのまま隆起した喉仏に興奮しながら吸い付くと、そこから首筋、耳の裏とリップ音を立てながら愛撫する。
リボーンの逆立った髪に指を通した所で互いに目が合い、もう一度濃厚なキスを交わした。
やっぱりちゃんと歯を磨いてもらって良かった。
セックスの最中に舌を絡ませた濃厚なキスが味わえないなんて、味付けされていない料理みたいなものだ。
長く美しいリボーンの指が皮膚の表面を這う感覚に身を委ねながら、@@@は頭の片隅でそう思った。

体を求め合ってから既にどれだけの時間が経っただろうか。
舌や指や足を絡めて、何度も突き上げられた@@@は、達してから息の荒いまま
気持ちのいい倦怠感を纏ってリボーンの胸板に頬を寄せる。

「なぁ、@@@」

やけに熱っぽく吐息交じりで名前を呼ばれて視線を上げると、髪、額、眉、鼻の頭と啄むようなキスが降ってきた。
今日はやけに甘えてくるな、と頭の片隅で思いながら、どうしたの、と訊ねると、
リボーンは遂さっき@@@の腹上で果てたときと同じように、
苦しいのか気持ちいいのか泣きたいのか笑いたいのか、そんなひどく曖昧な表情を見せて、
かと思うと少し苦しいくらいに@@@の体を抱きしめて、首筋に顔を埋めたまま動こうとも喋ろうともしない。

「どうしたの。」

子供をあやすようにリボーンの頭を撫でて、こめかみにキスをしてやると、ようやくリボーンは口を開いた。

「どうして俺たちは、性器でしか繋がり合えないんだろう。
・・・お前の中に俺が全部入って、そのまま同化しちまえばいいのにと思う。」

一瞬耳を疑った。それから、ああ、この人にもこんな風に、私と同じように心に脆い部分があるのかと理解したら、
たまらなく愛しくなって、先程リボーンにされたのと同じように、@@@もキスの雨を降らせた。

「でもリボーン、同化しちゃったら、会話も、キスも、抱きしめることも、できなくなっちゃうよ?」

それとも自分の心の中と対話しながら自慰でもするの?私は嫌だよ、そんな14歳みたいな行動。
リボーンの頭を掻き抱くようにして@@@が呟くと、
ああ、そうだな。その通りだ。@@@の腕の中で、リボーンは喉をならして自嘲する。

「なぁ、馬鹿だって笑ってくれよ」

唇で描く弧は、まるで今宵の三日月のようだ。